所用で実家の近くを歩いていると、何やら向こうから母に似た人が歩いてきた。
家に戻った際、家の中に母の存在を感じると、途端に苦しくなる。それは、一緒に暮らしていた頃に比べれば、比較にならないほど楽なものだし、全然プレッシャーを感じるわけではないけれど、それでも心がざわつきパニックを起こさないように泣かないようにすることに意識を集中しなければならない。
道で出会ったときは互いに無視している。だけど毎回、どうしても確認したくて今回もすれ違いざまちらりと顔を見た。
やはり母だった。なぜか妙に茶色いサングラスをかけていた。
なんのリアクションもなかったから、母が私に気づいたかどうかはわからなかった。
私は顔を上げて、知らん顔して通り過ぎました。
世間の人からは高齢の親を捨てた不義理な娘に見えるかもしれません。
道で会って、言葉を交わさない親子など普通の生活をしている人には考えられないかもしれません。
でも、毒親の支配からようやく逃げ出した娘には、母の存在を認識しないことが平静を保つためには必要なのです。